大腿骨頸部骨折と転子部骨折の治療と合併症予防の看護

外傷

救急外傷で本当に多いのが、大腿骨頸部・転子部骨折です。

いっしー
いっしー

高齢者×転倒=大腿骨頸部・転子部骨折

という方程式が成り立つくらい、本当に多いです。

救急部の外傷の定番疾患ですので、絶対に知っておいてね!

高齢者の転倒の90%は大腿骨を骨折しているらしいです。

手術しないと歩行できないので、90代でも手術する現代です。

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大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折の違い

大腿骨骨折には大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折の2種類があります。

まずは、違いを整理しましょう。

 

名称通り、骨折部位がわずかに違います。

頸部骨折:関節包の内側のことを指し、内側骨折と呼ばれる。
転子部骨折:関節包の外側のことを指し、外側骨折と呼ばれる。
予後や疼痛を考えると、重症度は頸部骨折>転子部骨折です。
 

大腿骨の解剖の確認

 

股関節の可動域が広いのは、球体が骨盤にはまっている構造のおかげです。
球体に近い、骨盤側を頸部、足側を転子部と呼びます。

頸部骨折:骨癒合しづらいので、早期に手術が必要
転子部骨折:骨癒合しやすいので、手術までの時間的に余裕あり

頸部骨折も転子部骨折も手術しなければ、歩行できません。

手術の緊急度は、骨癒合のしやすさで決まり、頸部骨折の方が緊急度が高いです。

しかし、救急搬送されて、緊急手術となることは少なかったです。

理由は、

・病院事象(OPE枠、医師の空き状況)
・家族の同意が必要(認知度が低下している高齢者の場合)
・薬剤コントロールが必要(抗凝固剤、抗血小板剤を内服している場合)
・基礎疾患
 
複数の理由により、なかなか搬送直後に緊急手術とはならないです。
ただ、頸部骨折の方が優先的に手術が実施されることは間違いありません。

 

検査・診断方法

  • レントゲン
  • (CT)

言うまでもないですが、整形領域なので、画像診断が確定診断になります。
大腿骨骨折は、レントゲン撮影で診断を確定することができます。


レントゲンで見つからずCT撮影を必要とする場合もありますが、可能性としては極めて低いです。


ただし、疼痛や変形のため適切なポジショニングでレントゲン撮影ができない場合はCT検査の方が、患者の苦痛が低く良いかも知れません。

頸部骨折の術式:人工骨頭置換術

(出典元:ナースフルより)

頸部骨折の手術では、球体の部分の損傷になるため自分の骨を固定するには弱く、困難です。

また、プレートなどで固定できたとしても血流が乏しくなり骨頭壊死に至るリスクがあります。

従って、人工骨頭という股関節の球体部分を人工物に入れ替える術式が一般的です。

手術は全身麻酔で2-3時間です。

転子部骨折に多い観血的整復内固定術

転子部骨折の時の術式となります。

(出典元:ナースフルより)

転子部は骨頭から離れているため、骨癒合が良く血流も維持されやすいです。

従って、プレートやスクリューで自分の骨を正しい位置で固定する術式になります。

ただし、骨密度が低い場合はスクリューを挿入するときに骨が負けて骨折する可能性があります。
骨がもろい患者さんの場合、人工骨頭置換術を選択せざるを得ません。

手術は全身麻酔で1~2時間です

手術が実施できない場合の保存治療

確実にADLは低下し、死亡リスクは上がります

最近では80代でももともと歩行できていた患者の場合は手術をすることが多くなっていますが、どうしても手術ができない身体的な状態の場合は保存治療しか方法はありません。

保存治療の場合は、正しい位置で骨が癒合される可能性は極めて低く、特に頸部骨折の場合は骨癒合が難しい箇所であるため変形した状態で骨が固まってしまい自力歩行は不可能です。


骨が固定されるまでには約2~3か月かかります。

その間ベッド上での生活を余技なくされ、廃用症候群が進行するでしょう。

高齢者の転倒が命取りになる所以です。

術前の合併症予防

頸部骨折・転子部骨折ともに、手術を受けるまでに少し時間がかかることは説明した通りです。

手術を受けるまでの間、患者さんは寝たきりになります。

そこで、最も注意が必要な合併症は、腓骨神経麻痺と深部静脈血栓症です。

腓骨神経麻痺予防

腓骨は、膝の外側のぼこっと出ている骨のことです。

痩せている人ほど、突出しているので分かりやすいでしょう。

【原因】
長時間、腓骨頭が長時間圧迫されること

【症状】

  • 下腿外側から足背部にかけての痺れや感覚異常
  • 下垂足(尖足)

大腿骨頸部・転子部骨折ではギプス固定や牽引はしないので外力で圧迫される可能性はありません。

しかし、手術までの間、疼痛のため、患者さんは患肢を外旋する傾向があります。
さらに、疼痛のため、自力で足を動かそうとしません。
その結果、長時間外旋位となり自分の足の重みで腓骨頭が圧迫されて麻痺を生じます

腓骨神経麻痺予防には、

外旋内旋中間位のポジショニング

腓骨を圧迫しない体位を取ればOKです。

イメージは膝頭が天井を向くこと。
膝下やふくらはぎの下に枕を挿入すると、外旋内旋中間位が維持しやすいですよ。

深部静脈血栓症予防

いっしー
いっしー

深部静脈血栓症予防は寝たきりの患者さんには常識です。

術前に血栓ができてしまうと、術後の離床の時に肺塞栓症になりかねないので、要注意です!

詳細はこちらをチェックしてください。

深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防と看護

 

人工骨頭置換術で起こりやすい合併症

・脱臼
・深部静脈血栓症、肺塞栓症
・細菌感染
・人工物のアレルギー反応
・人工股関節の緩み、破損、摩耗
・周辺の血管、骨、神経損傷(術中)

周手術期に発生しやすい合併症は当たり前なので、載せていません。

人工骨頭置換術で最も多い合併症は脱臼です。

しかし、脱臼は予防することができる合併症なので、絶対に脱臼しないよう、看護師が指導しましょう。

脱臼予防:屈曲内旋位は禁忌

関節包を切除して、人工物を挿入しています。
3か月で関節包は再形成されるので術後3か月が最も脱臼に注意が必要です。
(※3か月後もできれば、禁止位が取らない方が良いです)

特に後方アプローチの場合、屈曲内旋位は禁忌

屈曲内旋と言っても、分かりにくいので具体的な座り方で説明をしましょう。
足を曲げた状態で内側へ向けなければ良いわけですので、あぐらや正座は問題ありません。

日常動作で注意すべき行動

・床に座って靴下をはく
・足を組む
・ステップ台に上る
・物をしゃがんで拾う

これらの行動は、日常的にしやすいですので、注意が必要です。

観血的整復内固定術で起こる合併症

・深部静脈血栓症、塞栓症
・細菌感染
・神経血管損傷
・偽関節
・大腿骨頭壊死

自分の骨を固定する術式ですので、人工骨頭とは違い脱臼のリスクはないです。

人工骨頭置換術に似ていますが、大きく違うのが2点。

偽関節:骨折部が進展し、骨癒合ができなくなった状態

大腿骨頭壊死:転位が大きい場合は、骨を正しい位置へ固定することが難しく、骨頭への血流が乏しくなり壊死する可能性がある

骨折の度合いによっては骨接合できない場合があるというのが怖いところです。

大腿骨骨折の治療後のリハビリ

【一般的なリハビリスケジュール】

①ベッドの端で足を下ろし、座れるか
②車椅子へ移る
③立つことができ、立位を保持できるか
④平行棒の間で歩行訓練
⑤歩行器を押しながらの歩行訓練
⑥(松葉杖を使って歩行訓練)
⑦T字杖を使って歩行訓練

のように進めます。

人工骨頭置換術の場合は徐々に荷重OKとなりますので、段階的にリハビリをします。
一方、観血的整復内固定術はたいてい術後1日目より荷重OKとなり、車椅子移乗に挑戦し、歩行訓練を開始するまでの期間も短いのが特徴です。

【余談】骨折が原因でなる寝たきりの恐怖

骨折が寝たきりの原因になるって有名ですよね。さらに、寝たきりになると様々な合併症のリスクが上がり、死亡率が高まることも明らかです。

寝たきりの恐怖について、「高齢者の長生きの秘訣は転ばないこと」をチェックしてください。

救急看護の実際

救急外来

疼痛が強いため、ポジショニングに注意が必要です。
まず、モニター装着、採血+点滴確保は言うまでもないです。

*採血?と思うかも知れませんが、大腿骨骨折では出血が多く貧血になる可能性がありますので必ず必要です。

衣類は可能であれば、体位変換をしながら脱衣の介助をしますが、疼痛が強く体位変換が難しい場合は本人に許可をもらいハサミで切ることもあります。
疼痛が強くて処置ができそうにない場合は、まずは鎮痛剤を投与しましょう。

レントゲン撮影で診断が決まり、すぐに手術に行くことはほぼないです。
救急病棟もしくは整形外科へ入院し、可能な限り早い日程で手術となります。

救急病棟

【手術前】

  • 腓骨神経麻痺予防(ポジショニング)
  • 疼痛管理
  • 血栓予防
  • 貧血の有無

の確認やケアに努めます。

【手術後】

  • 疼痛管理
  • 合併症予防
  • 離床介助(リハビリ)

が大切です。

疼痛は術後が最も強く、日数の経過とともに自然と軽減していきます。
人工骨頭置換術の場合は脱臼しやすい体位については患者へ必ず説明しましょう!

車椅子に乗車することができれば尿道カテーテルを抜去して大丈夫です。
意外と、尿カテを抜いた後は自分でトイレに行かないといけないと思いリハビリが進みやすかったりします!

回復期に入ればリハビリ専門病院などへ転院しますので転院準備を忘れずに。

 

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