大動脈解離とは
左心室の大動脈弁を通過後の太く丈夫で弾力のある血管を大動脈と言い、全身へ血液を送り出す最初に通る重要な血管です。
大動脈は内膜・中膜・外膜という3層構造になっており、内膜と中膜の間が何らかの原因で薄く・もろくなり、中間層に血液が流入します。つまり外膜だけが繋がっている状態です。流れ込んだ血液の勢いにより大動脈が縦方向に避ける病態です。
そして解離した大動脈は外膜1層となっており、血圧に耐えられず大動脈破裂を起こすこともあります。
心筋梗塞や致死的不整脈と同様に突然死の原因になりやすい疾患です。
症状
自覚症状や兆候がないのが特徴です。
急な胸背部痛が最大の特徴です。その後、血圧低下や心拍数の低下などショック兆候へと移ります。
合併症
大動脈の拡張に伴う
大動脈弁閉鎖不全症、大動脈瘤、瘤の圧迫により嗄声や嚥下障害
大動脈破裂に伴う
心タンポナーデ、血胸
偽腔の圧迫による血流障害に伴う
急性冠症候群、脳梗塞、腎不全、全身の循環不全など
診断
- バイタルサイン測定:ショック兆候の確認
- 採血:ACSの所見、血ガスでpHの確認
- 大動脈弁閉鎖不全症の心雑音の確認
- 心電図:心筋虚血の評価
- 心エコー:心嚢液の有無、大動脈弁の逆流の有無、アシナジーの有無
- 胸部XP、胸部CT:大動脈解離の部位を把握
鑑別疾患をふまえて診察することで概ね合併症まで把握することができます。
分類
大動脈解離と言われて1番着目しなけばならないことは大動脈の避け方です。
どこから解離するかによって分類が変わります。
A型:上行大動脈から大動脈解離が始まるタイプ。
48時間以内で破裂する可能性が高く、半数以上で心タンポナーデを認め
ます。
B型:上行大動脈は避けず、背部の下行大動脈から解離が始まるタイプ。
上記の図を参照しながらもっと考えていきます。
スタンフォードA型
上行大動脈から解離している場合、鎖骨下動脈・左右の総頸動脈への血流が乏しくなり、脳虚血の可能性が高まります。また、大動脈幹部が最も血圧が高くなっており、解離を起こした後も圧の高い血液が流入するのでどんどん血管が避けていく可能性やかろうじて外膜1枚で繋がり解離腔が形成されたところが耐えられなくなり破裂する危険もあります。
そのため、スタンフォードA型は緊急度・重症度がともに高いのです。
治療法
解離した大動脈を人工血管に置き換える「人工血管置換術」を行う。
大動脈弁(心臓の出口の弁)大動脈弓部まで広範囲に置き換えることも少なくありません。置換する部位は大動脈内膜の亀裂の場所や血流などを総合的に考慮して決定します。
また解離により大動脈から分岐した血管に血流障害を生じており臓器不全を合併している場合はその血管を「人工血管バイパス術」を行い、臓器への血流を改善させます。
手術時間は4~8時間。
人工血管は感染などの問題が起きなければ、メンテナンス不要で永続的に使用できるとされています。
外科治療の後は内科治療へ変更となり
降圧剤の服用による血圧コントロールが重要です。
一般的な目安は収縮期血圧を100~120㎜Hg以下です。
スタンフォードB型
上の図のように下行大動脈以下の解離になるので、脳への血流は維持されていますし緊急手術は不要とされることがほとんどです。
治療法
内服と安静がメインです。
スタンフォードA型と同様に収縮期血圧が100~120㎜Hg以下になるように薬物でコントロールします。血圧が安定するまでは床上安静となるでしょう。
B型でも解離の範囲が大きい場合や発症から時間が経つと、腸管や下肢の血流障害を認めることがあります。その場合は、ステントグラフトを使った血管内治療を施します。
ステントグラフトとは金属の骨組みをもつ人工血管のひとつで、これを橈骨や鼠経部の動脈から解離している箇所へ挿入し、下行大動脈の内膜の亀裂を塞ぎます。内膜の亀裂を塞ぐことで偽腔への血流が遮断され、血管の破裂や血流障害を予防することができます。
カテーテル治療なので侵襲が低いことが特徴です。
ステントグラフトでも塞ぎきれない場合は、B型であっても外科手術となるでしょう。ただし緊急ではなく予定手術になると思います。
大動脈瘤と大動脈解離の関連
大動脈瘤が破裂して大動脈解離を起こすこともありますし、大動脈解離の後に慢性期に入り、血管がもろくなってしまい大動脈瘤へとなることもあります。
どちらも原因にも結果にもなりうるのです。
そして、大動脈瘤と同様に大動脈解離も明らかな原因はわかっていません。
恐らく生活習慣病や喫煙や遺伝性疾患など関連因子は複数ありそうですが、大動脈解離は急な発症というのが何よりも特徴で予測困難かつ突然死のリスクが高い疾患です。
救急看護師の対応
救急外来
突然かつ激しい胸背部痛と言われると頭の中に大動脈解離の可能性を考えて初期診療に携わる必要があります。
精査の結果、スタンフォードA型かB型かがとても重要です。
A型の場合はそのまま緊急手術になるので手術への出棟準備が必要です。かかりつけの患者の場合は既往や感染症のデータなどカルテを参考にできますが、初診の場合は既往は家族へ、最初の採血に追加して感染症の評価をする必要があるでしょう。手術室へ行くまでに心タンポナーデなどを起こす可能性もあるので循環呼吸・心電図波形には引き続き注意が必要です。
B型の場合は厳重な血圧管理を開始します。疼痛が強い場合はモルヒネなど麻薬製剤を使用することもあるでしょう。手術に至ることはほぼなく、解離の大きさや循環動態に応じてICUもしくは血管外科・救急病棟へ入院となるでしょう。
救急部ICU
スタンフォードA型の場合は術後管理となります。手術で人工血管に置換しているので血流は問題ないと思いますが、血圧管理に努めます。術後早期にリハビリを開始しますがその際は心臓の過負荷に注意が必要です。
スタンフォードB型の場合は腎臓や下肢に循環不全を認めてる場合が入院対象になると思います。血圧管理は言うまでもないですが、腎不全や下肢の血流不全の可能性があるのでINOUTバランスや電解質異常、下肢の色調や動脈触知の有無を観察する必要があります。
救急病棟
A型はまず入院しないでしょう。
B型の場合は血圧管理と安静が最優先事項です。看護師も解離の部位と大きさを把握した上でケアをすることでどこを観察すべきか分かると思います。
救急部ICUよりは抹消の循環不全のリスクは低いですがもともと腎機能が悪いとか血栓を持っている人などは血流が乏しくなり合併症を起こす危険もあるため注意が必要です。
血圧が安定すれば一般床へ移動し、内服治療へと移行するでしょう。
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