慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)による呼吸不全のため救急搬送されることがあります。
安易に酸素投与をしてしまえば…死に繋がる怖い疾患です。
本人の肺の機能によっては息苦しさを取り除くことができない場合も多く、治療と苦痛緩和のバランスが難しい疾患とも言えます。
日本の3大死因は1位悪性新生物 2位心疾患 3位脳血管疾患ですが、慢性閉塞性肺疾患の患者が増大しており、将来的には死因3位になるのではないかと言われています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
肺気腫+慢性気管支炎のイメージを持つと分かりやすいです。
1番の原因は喫煙です。
喫煙により、タバコの煙に含まれるニコチンなどの有害物質を吸い込むと、肺に炎症が起きます。長期間の喫煙により肺の炎症が慢性化すると、気管支の末端や肺胞壁の破壊され、袋状に拡大します。
その結果、肺胞の弾力は低下し、萎んだ風船のようになり、気流閉塞を招き正常なガス交換ができなくなります。これが肺気腫の状態です。
また、長期間、気管支に炎症が続くと、気管支の粘膜・壁が肥厚します。
その結果、空気が通る内腔が狭くなるとともに道分泌物が増加して気流閉塞を招きます。これが慢性気管支炎です。
COPDは進行性の疾患で、肺の機能はもとに戻らず、正常な呼吸ができなくなる疾患です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状
- 労作時の呼吸苦
- 痰貯留や増加
- 慢性的な咳
- 体重減少
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の原因は喫煙
最初に述べた通り、1番の原因は喫煙。
それ以外にもPM2.5や粉塵、外気ガスなど有毒ガスを長期間吸うことで慢性閉塞性肺疾患になる可能性はありますが、今の日本では…喫煙以外はあまり考えにくいです。
慢性閉塞性肺疾患の検査と診断
- 呼吸状態
- 胸部X線
- 胸部CT
- 呼吸機能検査
- 動脈血ガス(血中酸素・二酸化炭素飽和度やpH)
診断に最も有効なのは呼吸機能検査の中のスパイロメトリーです。
気管支拡張薬を吸入後、FEV1/FVC<0.7
の場合、慢性閉塞性肺疾患を強く疑います。
*1秒率(空気を可能な限り吸った後、最速で息を吐き出して、最初の1秒間で吐き出せた量を肺活量で割った値)が70パーセント未満という意味です。
FEV1:1秒率
FVC:努力肺活量
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療
禁煙
言うまでもなく、1番重要なことは禁煙です。
根本的な原因を取り除くこと以外に解決方法はありません。
慢性閉塞性肺疾患と診断されても、禁煙できない人も大勢います。
たばこは依存性があるので、咳込んでも息苦しくても吸ってしまうのでしょう。
そんな人には禁煙外来で医師の管理の下、強制的に禁煙することをお勧めします。
薬物療法
- 気管支拡張薬
気管支や肺胞が閉塞している状態なので、気管支拡張薬であるβ₂刺激薬や抗コリン吸入薬によって閉塞部位を改善させ、有効なガス交換ができるよう補助します。
気管支拡張薬は作用時間が異なるので慢性閉塞性肺疾患の重症度に応じて薬が選択されます。
*抗コリン薬は緑内障や前立腺肥大は禁忌
- ステロイド
初期患者には使用しません。
中等度以上の患者には、炎症を抑えるためにステロイド吸入を持続的に行うことがあります。
急性増悪の場合はステロイドパルスという短期間に多量のステロイドを投与する治療をします。
- 去痰剤など状態に応じて
慢性閉塞性肺疾患の患者は粘稠度の高い痰が貯留しやすく、咳嗽力が低下しているため自己喀痰しにくいことがあります。そのような場合は去痰剤を内服し、痰切れをよくすることも重要です。
酸素投与
低酸素血症の改善のため低濃度の酸素を持続的に投与します。
慢性閉塞性肺疾患で最も注意すべきことは酸素投与です。
肺胞の機能が低下している状態なので、酸素を吸うことはでき一時的に呼吸苦は緩和されますが、二酸化炭素を排出することができず、血液中の二酸化炭素濃度が上昇していきます。その結果、CO2ナルコーシスを合併する危険があります。
慢性閉塞性肺疾患の患者の場合、SPO2の目標値は90%以上など健常者よりも低い数値を設定しCO2ナルコーシスを想定した治療をしています。
*慢性的に肺機能が低下し、酸素濃度が低い状態で生活をしていたのでSPO2が90%前後でも息苦しさを感じない人が多いです。
呼吸リハビリテーション
呼吸療法士・理学療法士とともに腹式呼吸の練習など行い、呼吸苦を改善させるアプローチです。
栄養
呼吸、咳嗽には大きなエネルギーを消費します。
肺機能が低下している人が消費エネルギーが多く、さらに食事摂取量も低下しやすいため栄養状態が不良の方が多いです。
呼吸筋を低下させないため高蛋白質の食事を意識したり、1回の食事量が少ない場合は食事回数を増やすなどエネルギー摂取を心がけます。
肺性心などの合併症がある場合は心機能の低下が心配なので塩分制限をします。
感染症予防
インフルエンザや肺炎球菌による感染症で慢性閉塞性肺疾患が急性増悪する可能性があります。日頃から感染症予防を徹底し予防接種も推奨しています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併症
全身の合併症
- 虚血性心疾患
慢性閉塞性肺疾患の患者は動脈硬化を伴っている人が多く、呼吸苦を補うために呼吸回数が自然と多くなるので心臓に負担が大きくなり心疾患のリスクは上がります。
- 骨粗鬆症
骨粗鬆症は低栄養状態が原因と考えられます。
- 抑うつ
呼吸苦は死を連想させ、うつ状態になることもあります。
肺合併症
- 肺高血圧症
- 肺炎
- 気胸
- 肺がん
肺がんを合併している人が多いとデータで明らかになっています。
肺高血圧症のリスクもあるので、心疾患のリスクとともに注意が必要です。
呼吸状態の重症度判定
参考までに…
慢性閉塞性肺疾患に限らず、呼吸器疾患を対象に使う分類表です。
Ⅲ度以上になれば在宅酸素療法の対象になります。
救急看護の実際
救急外来
慢性閉塞性肺疾患の急性増悪により救急搬送される方が多いです。
著しい低酸素状態と呼吸性アシドーシスになっていることが多く、ただちに酸素投与や気管支拡張薬、ステロイド治療を開始します。
呼吸苦により治療がスムーズにできない場合は鎮静剤を使用することもあります。
酸素・薬物治療でも呼吸状態が改善されない場合が、NPPVを装着し体内の二酸化炭素を吐く補助をします。
NPPVでも呼吸状態が改善されない場合は、挿管し人工呼吸器の管理が必要になりますが、もともとの肺の機能が低下しているため抜管できない可能性や痰量が多く人工呼吸器を装着しても肺炎合併などリスクが高いことが想定されます。
安定していた時の本人の意向や家族の意思を確認し人工呼吸器を装着するかどうかを決定します。
救急部ICU
NPPVもしくは挿管管理の患者が入院対象になります。
挿管管理となった場合、定期的に血液ガス分析を実施し、酸素飽和度やpHの確認、CO₂ナルコーシスの判定をし、設定を細かく変更します。
また痰量が多いことが予想され、肺合併症のリスクが高いです。そのため、気道浄化に努め、必要であれば気管支鏡で痰を回収することもあります。
急性増悪の場合、ステロイドパルスを実施し炎症が改善され呼吸状態も安定すれば抜管できますが、肺機能によっては抜管できず気管切開を施行することもあります。
救急病棟
酸素投与もしくはNPPV管理の患者が入院対象となります。
NPPVを使用する場合、装着開始時は不快感や不安が強く同調できない患者が多いです。
肺活量やリーク量、呼吸状態、加湿など細かく確認し、患者が器械と同調できるよう整えます。
装着開始後は安定するまで1時間ごとに血液ガス分析を実施し、pHやCO₂ナルコーシスの判定をしましょう。
NPPVの場合、排痰をするときはマスクを外す必要があります。
吸引中は通常の酸素投与に変更して短時間で実施し、すぐにNPPVマスクを当てましょう。
早ければ半日程度でNPPVを離脱することができますが、NPPVで呼吸状態が改善しない場合が挿管管理が必要になるので、急変時に早期に対処できるよう、アンビュー・ジャクソンリースや挿管時に必要な物品は事前に用意しておきましょう。
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