救急部では知らない間に、結核患者と接していることがあります。
毎年全国では結核罹患者数2万人以上、東京都では3000人の新規患者を認めており先進国では珍しく、終焉していない感染症です。
救急部では、路上生活者や困窮生活を送っている方が救急搬送された場合、呼吸器症状がない場合でも結核の可能性を少し考えて対応をしています。
看護師は不特定多数の患者と接するので結核の正しい知識を身に着け、自己防衛することが何より大切です。
結核菌は強毒で空洞化した肺に感染しやすい
結核菌が原因となって起こる病気で、全身へ炎症を引き起こします。一般的に多いのは肺結核です。
結核の感染経路はほとんど経気道感染です。ごく少量でも結核菌が気道から侵入し、肺胞内に達し、増殖を始めます。
一般的な菌であれば、自己免疫機能が働き抵抗性を持ちますが、結核菌は強毒で身体の抗菌作用では打ち勝つことができず、感染に至ります。
結核菌に感染すると、炎症から始まり、次第に組織が破壊され腐った状態になります。
これが肺結核ではレントゲン上、空洞として発覚します。
結核菌が増殖するためには空気と栄養が必要であり、空洞化した肺を住処にし、菌は成長を続けます。
空洞を持った結核患者が感染源になりやすいのは、菌が増殖する好条件を持っているためです。
肺は血管も多く、近くにリンパ菅も流れているので、結核菌が他の場所へ血管やリンパを通じて流れに乗り、他の臓器にも結核病巣を作ります。
結核の症状・検査・治療について~空気感染予防~
結核菌は感染者がくしゃみや咳をしたときに一緒に排出されます。くしゃみや咳によるしぶきを吸った場合に加え、くしゃみや咳の水分が蒸発した後も結核菌だけが空中に残っています。
これが、空気感染の特徴で水分がなくても菌が生存でき、脅威です。
潜伏期間は6か月~数十年と個人差があります。
結核菌が人体に侵入し肺に到達するとキャリアという保存状態になります。
しかし、キャリア全員が発症するわけではなく、結核菌免疫システムが落ちている人が発症します。
結核菌に感染しても約90%の人は発病しません。
しかし、癌治療中や免疫抑制剤を内服しているなど免疫機能が低下している状態、子ども、高齢者では発病しやすいです。
結核の主な症状
- 2週間以上続く咳・痰・微熱
- 血痰
- 食欲低下
- 体重減少
初期症状は風邪と類似しているので気づかないことが多いですが、
血痰と体重減少が結核のサインです。
風邪だと思って治療し休息しても症状が長く続く場合は結核の可能性も考えましょう。
結核の検査と診断方法
まず、胸部レントゲン&CTで結核疑いとなります。
そして、培養検査へ移ります。
【塗抹検査】
痰培養をスライドガラスに塗抹染色し、抗酸菌を検出する。結核菌群と非結核性抗酸菌があり、塗抹検査ではこの2つを区別することができないが、排菌量を迅速に調べることができる。結果は1日で出る。
【分離培養法】
塗抹検査よりも感度が高く、菌の種類の鑑別や薬剤性を調べることができる。
しかし培養期間がかかるというデメリットもある。結果までに6~8週間かかる。
【核酸増幅検査PCR法】
痰の検体からDNAを抽出し、結核菌遺伝子を増幅する。
分離培養法よりも迅速かつ高感度な検査で、結核菌群と非結核性抗酸菌との区別も可能。
ただし、死んでいる菌やBCG株でも陽性結果が出るので他の感染診断と組み合わせる必要あり。
結果までに1~3日かかる。
この3つの痰培養検査を組み合わせます。
一般的には塗抹検査3回とPCR1回で3~4日で結果が分かり、塗抹検査陽性+PCR陽性となれば結核の診断が下ります。
そして、ガフキー〇号という排菌の有無を判定し治療を開始します。
(*ガフキーの数字が大きい方が感染力が高いです)
結核と診断されると、結核病院へ転院し治療を受けます。
(結核と診断されるまでは、どの病院でも構いませんが陰圧個室とN95マスクの着用により空気感染予防を徹底します。)
結核の内服治療
抗結核薬を6ヶ月以上、継続的に内服します。
具体的には
最初の2カ月はイソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+
ピラジナミド(PZA)・スト レプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)の4剤で治療。
その後の4カ月間はINH +RFP の2剤またはINH +RFP +EBの3剤で治療する。
排菌がある場合も、一般的に薬を飲み始めて約2週間で他の人への感染力はほぼ消失します。
しかし、排菌の有無に関わらず、結核菌は分裂までの期間が長いため、半年以上の長期内服が必要です。
*内服管理は地域の保健師が確認・サポートしてくれます
結核がリンパに感染すると粟粒結核と言う
リンパ血行性に結核菌が移行し、全身へ感染し症状を引き起こすと粟粒結核と言います。
背骨に感染すると脊椎カリエス、腎臓に感染すると腎結核と言い、この2つが多いです。
他には、膀胱、喉頭、腸、腹膜、腹膜、生殖器など感染する可能性があります。
最も怖いのは脳へ感染し、結核性髄膜炎を引き起こすことです
現在でも結核性髄膜炎では1/3が死亡し、半数が後遺症を認めます。
粟粒結核になるリスクが高い人
*免疫力が低下している人
- 幼児
- 高齢者
- アルコール中毒
- 悪性腫瘍
- HIV感染
- 免疫抑制剤の使用
- 膠原病
- 腎不全
- 糖尿病
- 妊娠
など。上記のような免疫力が低下しやすい患者が結核に罹患した時は粟粒結核に移行しないよう注意が必要です。
結核と間違われやすい肺MAC症とは
肺非結核性抗酸菌症の80%が肺MAC症になります。
これは結核菌以外の抗酸菌でMAC(マイコバクテリウム、アビウム、コンプレックス)という菌による肺の感染症です。
MACは土壌や水など生活環境に広く存在しており水道水・浴室が感染源であると証明された症例も存在しています。
つまり、誰もが日常的にMACに暴露され感染する可能性を持っていますが発症は一部の人に限られます。
この発症のメカニズムは明らかにされておらず、環境因子以外にも原因があると言われています。
肺MAC症の罹患率は増加しており、特に中高年女性に多いと言われています。
肺MAC症と結核の違い
まず原因菌が異なることは上で説明した通りです。
1番の違いは肺MAC症は人から人へ感染しないことです。
結核の場合は、空気感染で陰圧個室管理が必要ですが、肺MAC症は隔離も感染対策も不要です。
肺MAC症の症状は結核に似ています
- 咳
- 痰
- 血痰
- 微熱
- 呼吸困難感
- 倦怠感
と、ほぼ結核の症状と同じです。ただ、肺MAC症の場合、無症状の人も多いので自分で医療機関を受診して診断される人は少ないでしょう。
肺MAC症の検査と診断方法
胸部レントゲンやCTで空洞化を見つけると、最初は結核疑いとなります。
画像診断では結核か非結核性抗酸菌症かの区別がつかないので、念のため、結核疑いとして検査を進めます。
そして、結核の診断でも説明した塗抹検査3回とPCR1回の痰培養を提出します。
肺MAC症の場合は、塗抹検査陽性、PCR陰性となります。
PCRとは結核菌のDNAを検出する検査なので、結核菌群と非結核性抗酸菌の区別が可能となります。
PCRで陰性が出るまでは、結核疑いとして陰圧管理とN95マスクの着用による空気感染予防を継続します。
肺MAC症の治療
・レントゲン上で陰影のみであれば
自覚症状もほとんどないことも多く経過観察で定期的に検査で肺の評価をします。
特別な治療はありません。
・空洞が存在すれば
進行が早く予後不良になりやすいため、抗生剤+抗結核剤の多剤併用治療を開始します。
菌陰性化後(喀痰から菌が検出されなくなってから)1年と決められており、平均して治療期間は1~2年です。
・外科治療
空洞が存在し薬物療法で効果があまり得られない時、喀血を繰り返す症例や高度な気管支拡張病変を認める場合は、肺切除の適応となります。
救急看護の実際
救急外来
診断がつく前に、結核患者と接する可能性が高く大変危険です。
・路上生活者
・ごみ屋敷のような不衛生な場所で生活している方
・血痰が出ている方
の搬送の場合、呼吸器症状がなくても結核の可能性を考えて行動します。
血痰が出ていれば、N95マスクを必ず着用していました。
念のため、空気感染予防を徹底することで自分の身も二次感染も予防することができます。
不衛生な環境で過ごす人へ偏見を持っているように感じるかも知れませんが、あくまでも感染予防の徹底のためです。
働いている私たちは健康診断も受けていますし、免疫も獲得して働いているので結核患者と接触しても発病する可能性は低いですが、院内には易感染状態の患者も多く院内感染を起こすと大変危険です。
そのため、1番最初に患者と接する救急外来であらゆる可能性を想定して自己防衛をすることが重要です!
救急部ICU・救急病棟
診断には3~4日かかるので結核疑いの状況で入院する場合は、陰圧個室管理となります。
そして、医療者が患者と接するときはN95マスク着用です。
もし、患者の咳やくしゃみが続き、体液が付着する可能性が高い場合はガウン、フェイスマスクなども必要になります。
基本は標準対策+N95マスクとなります。
結核の疑いのある患者は基本的に陰圧個室からは出ませんが、検査など必要な外出の際は、患者自身にサージカルマスクを着用して頂きます。
今の仕事に悩んでいる看護師へ
をぜひ参考に。
コメント
[…] 対症療法と結核の治療に準じます。 […]