大量吐血で救急搬送される患者は、高確率で胃・食道静脈瘤破裂を起こしています。胃・食道静脈瘤を含め広義の意味で、吐血を認める場合、上部消化管出血と呼びます。
静脈瘤破裂のことを英語で「バリックスのラプチャー」と呼びます。
肝硬変、門脈圧亢進症、食道静脈瘤破裂は非常に関連のある病態なので同時に説明していきます。
肝硬変の基本知識
C型肝炎は放置せず治療を!とCMでやっていますが、肝硬変になる原因はウイルスだけでなく様々です。
肝硬変の原因
・ウイルス性(B型肝炎・C型肝炎)
・自己免疫性(自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎)
・非アルコール性脂肪肝炎
・アルコール性肝炎
・代謝性(ヘモクロマトーシス・ウィルソン病)
肝硬変になると
上で挙げた原因によって肝臓が炎症を起こします。
すると、炎症を抑えようと線維というたんぱく質が増加し、肝臓全体がごつごつと岩のように硬くなったり萎縮していきます。
硬化・萎縮により肝臓へ取り込める血液量が減少していき、肝臓の機能は著しく低下していきます。
肝硬変の重症度分類
チャイルドピュー分類に従って評価します。
GradeAとBの一部の代償性の場合:肝臓の機能は保たれれている
GradeB~Cになると非代償性と言い後戻りできない状態で、次に述べるような肝硬変の症状をきたし、門脈圧亢進症→胃・食道静脈瘤のリスクが高いです。
肝硬変の症状
・クモ状血管腫
首や前胸部、頬にクモの巣のような細い広がった赤色の斑点ができる
・手掌紅斑
掌が両側赤くなる
・腹水
最初は下腹部だけ、大量にたまると腹部全体が膨満し、波動を感じる
・黄疸
眼球・全身が黄色くなる
・羽ばたき振戦
肝性脳症の症状であり、鳥が羽ばたくように無意識に手をばたばたと震わせる。
確認方法は左図の通りで座位・仰臥位どちらでも可。
①患者に掌を下向きにし胸の前で腕をまっすぐ伸ばしてもらう。
②その状態で手首を返し、看護師に掌が見えるようにしてもらう。
③パタパタと手が動く=羽ばたき振戦
(出典元:看護roo!)
・女性化乳房
肝臓の機能が低下すると女性ホルモンの分解が低下し男性でも乳房ができらかのように乳房が膨れる
・睾丸萎縮
肝臓の機能が低下すると女性ホルモンが分解されなくなり、睾丸が小さくなる
・腹壁静脈拡張
臍部周囲の静脈が拡張する。腹部膨満感が強いとはっきりと触れる
肝硬変と門脈圧亢進症の関係
肝硬変が起こると、肝臓が硬化・萎縮し血流が乏しくなります。
肝臓の血液循環が悪くなるため、肝臓に栄養を運ぶ門脈では血流が増え、処理しが間に合わなくなります。
この状態を門脈圧亢進症と言います。
そして、溢れた血液は門脈系と上大静脈の間に側副血行路を作り、細い血管がどんどん蛇行していきます。
門脈圧の正常:8~13㎝H₂O
25㎝H₂Oを超えると、門脈圧亢進症と言い、側副血行路を作ります。
門脈圧が亢進する病気は肝硬変以外にも、
- 特発性門脈圧亢進症
- 肝臓がん
- 慢性膵炎
などがあります。
門脈圧亢進症と食道静脈瘤の関係
門脈と上大静脈系の間に側副血行路が作られ、それが胃上部や食道粘膜下層から盛り上がって拡張・怒張します。
食道にできれば食道静脈瘤、胃にできれば胃静脈瘤と呼びます。
側副血行路とは周り道のようなもので細い血管に、肝臓に流れることができなかった血液が勢いよく入ってくるので、負荷がかかり、瘤状になっていくイメージです。
食道・胃静脈瘤になっても自覚症状は乏しく、食事の通りが悪いかも…?
くらいの症状しかありません。
食道静脈瘤(破裂)の治療
本来は食道静脈瘤の状態で内視鏡治療を受け、破裂しないことが目標です。
破裂すると内視鏡での処置が困難な場合もありますす、バイタルサインが安定していなければ、手術をすることも難しくなります。
食道バルーンタンポナーゼ法(破裂時)
これは一時的な止血処置に過ぎません。
S-Bチューブを口腔内から挿入し、食道の出血部位にバルーンを膨らませて直接圧迫止血させる方法です。
圧迫部の壊死や再出血の確立も高いので、一時的な止血のあと、以下の治療を行います。
内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)
Oリングというゴムバンドを使って瘤を結紮する方法です。
手技が簡単なため、緊急時はEVLの方が適していますが、再出血する可能性もあります。
内視鏡的硬化療法(EIS)
静脈瘤を完全に消失させることができます。
内視鏡で瘤の位置を確認し、直接針を刺します。
そこに硬化剤を注入し、瘤を潰す治療です。
90%以上の確率で止血が得られる治療法です。
経皮的肝内門脈シャント術
肝内で門脈-静脈シャントを形成する。
門脈圧亢進症の予防になりますが、やはり血液量によっては新たに側副血行路を作ること場合やシャントが閉塞する可能性もあるので完全に静脈瘤破裂を予防できるとは限りません。
外科治療(手術)
食道離断術という方法があります。
中下部食道周囲の血管郭清、食道離断再縫合を行い、脾摘、腹部食道、胃噴門部血行遮断を行い食道静脈瘤の箇所を切断する方法です。
救急看護の実際
救急外来
吐血による出血性ショックで来院する可能性が高いです。
止血と循環動態の安定化を同時に行っていきます。
まずはルート確保による補液、採血の提出で貧血症状と肝機能を確認します。
食道静脈瘤破裂の場合は自然止血することが難しいので、吐血が継続すると想定し輸血を開始します。
高確率で肝硬変がベースにあるため、輸血はMAPだけでなくアルブミンも投与することが多いです。
出血が持続し循環・呼吸状態が不安定な場合は、挿管します。
出血しながらの挿管になるので、誤嚥のリスクも高いので大変怖いですが…
呼吸停止したら助けようがないので…
出血が持続している場合は一時的な処置としてバルーンによる圧迫止血を開始し、内視鏡へ出棟します。
救急部ICU
たいていの場合はEVL後に入室となりますが、バイタルサインは不安定かつもともと肝機能が悪い患者なので、止血能力が低く再出血の可能性も高いです。
また挿管している場合は、誤嚥性肺炎を高確率で合併しているので肺ケアも大切です。
肝硬変→吐血は全身状態がよくない患者が多いため、困難の連続です。
救急病棟
外来から直接入院することはほぼないと思います。
救急部ICUで超急性期を過ごし、抜管・再出血のリスクが下がってから救急病棟にベッドを移動させるという場合はあります。
2nd-lookで止血を確認し、食事を再開します。
肝臓が悪いためもともとの栄養状態も不良で腹水も貯留していることが想定されるので、食事開始後は出血リスクもですが、消化器症状や肝硬変の症状に注意が必要です。
今の仕事に悩んでいる看護師へ
をぜひ参考に。
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