医療業界のキーワード「低侵襲」が弁膜症の治療でも有効になっています!
弁膜症の1つである僧帽弁閉鎖不全症・狭窄症の治療もカテーテル治療が導入され、患者の負担軽減、入院日数の短縮と良いこと尽くしです!
心臓の4つの弁の位置を確認しよう!
心臓には4つの弁があり、弁膜症には弁が狭くなって血液循環が悪くなる狭窄症と弁が閉じにくくなり血液が逆流させてしまう閉鎖不全症の2通りあります。
それぞれの弁に「狭窄症」と「閉鎖不全症」がありまとめて弁膜症と呼んでいますが、圧倒的に左心系で発症する確率が高いです。
前回、大動脈狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症について説明したので、今回は僧帽弁に注目します!
僧帽弁の治療法も低侵襲が当たり前の時代、カテーテル治療が始まりました!
弁膜症の治療は日々進歩しています。
僧帽弁狭窄症の病態を簡単解説
左心房と左心室の間にある僧帽弁が十分に開かなくなると、左心房から左心室への血液循環が不十分になります。
その結果、左心房の負荷が大きくなり左心房内圧が上昇するため肺循環のうっ血を招き、肺水腫・心不全を生じることがあります。
また、左心房内の血液をうっ滞させると、心房細動を合併し、心原性脳梗塞リスクも上がります。
僧帽弁閉鎖不全症の病態を簡単解説
僧帽弁が閉じにくくなると、左房から左心室への血液が逆流して、左房の負荷が大きくなります。
その結果、左心房内圧が上昇し肺循環のうっ血を招きます。
また、左心室へ入る血液量が減少するため、大動脈への循環量が減り呼吸困難などの左心不全の症状を引き起こします。
また、僧帽弁狭窄症と同様に、左心房に血液が滞ってしまい心房細動からの血栓リスクも高いです。
基本的にどちらも同じ症状を認め、僧帽弁閉鎖不全症の方が患者数は多いです。
僧帽弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症の主な症状
- 心不全症状
(息切れ、咳、痰が増える、呼吸困難など) - 脳梗塞
(意識レベルの変化、手足の痺れや麻痺、呂律障害、嚥下障害、口角下垂など) - 他の動脈塞栓
(塞栓周囲の疼痛)
など。
初期段階では無症状です。これは大動脈狭窄症・閉鎖不全症でも同様です。
狭窄症・閉鎖不全症が進行すると、説明した通り、心臓の負荷が高まり心不全徴候や塞栓症の症状が出現します。
僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症の原因
弁膜症の原因と言えば、溶連菌感染症によるリウマチ熱が主でしたが、現在はほぼ消失しています。現在では先天性、心筋梗塞などの虚血性心疾患により弁の開閉に関与している乳頭筋が障害を受け弁が閉じなくなる場合や増えているのが弁のずれや反転などの僧帽弁逸脱症という病態です。
僧帽弁逸脱症に至る疾患として最も多いのは感染性心内膜炎です。この病気がなくても弁の変性や腱索異常を認める場合があり原因は明らかになっていません。
僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症の検査・診断方法
- 聴診(心雑音)
- 心電図(心房細動を合併していることが多いので不整脈の確認をする)
- 胸部レントゲン(肺水腫や心拡大の評価)
- 経胸壁心エコー(必要不可欠な検査。弁の石灰化、癒着、肥厚の程度、弁の面積、左心房内の血栓の有無を判断する。心機能の評価も可能)
- 経食道心エコー(胃カメラのような機械を口から挿入し、食道から心臓を映して画像診断します。弁の状態はもちろん、血栓などの評価も可能)
- 心臓カテーテル検査(狭窄の程度を評価。予定手術の前に施行される)
これらの検査結果を総合的に評価して、僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症と診断し、重症度を判定した上で治療方針を決定していきます。
(検査内容は大動脈弁狭窄症・閉鎖不全症と同様です)
僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症の治療法~低侵襲のカテーテル治療に注目~
外科手術
開胸手術のため全身麻酔下で人工心肺を回した状態で施行するので侵襲は高いですが、少し前までは外科治療しか根治治療はなく僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症と言えば外科手術でした。
僧帽弁形成術
自分の弁の修復が可能であり、不整脈を合併する前であれば形成術が第一選択となります。
弁や腱索の断裂部を切除・縫合など修復します。たいていの症例で、弁輪拡大を伴っているので弁輪に専用のリングをあてて拡大を修復して適切なサイズに調整する方法をとります。
10~15年後に10~30%で再手術が必要になる可能性はありますが術後の数か月だけ抗凝固剤を内服するのみで、治療後のケアは少ないので治療後に負担は少ないです。
僧帽弁置換術
自身の弁を切除し、代わりに人工弁または生体弁を植え付ける治療法です。
大動脈弁置換術でも説明しましたね。
生体弁と人工弁は一長一短があります。
比較してみると
若い世代は再手術をしないでよいので人工弁を希望する場合が多いですが、妊娠を希望する場合は抗凝固薬を生涯内服する必要のある人工弁は出産時の出血リスクが怖いので不適切です。従って、必然的に生体弁となります。
医療業界の流行は低侵襲治療
心臓手術は一般的には胸骨正中切開で手術を行いますが、低侵襲手術療法として右肋間小開胸や胸骨正中小切開による手術が可能となってきており、僧帽弁形成術・置換術ともに適応されています。
これをMinimally Invasive Cardiac Surgeryの頭文字をとってMICSと呼ばれ、2016年頃より導入され始めました。
利点
- 胸骨を広範囲に切除しないので出血量が少ない
- 傷が小さい
- 術後の疼痛の軽減
- 術後の回復は早いので早期退院・早期社会復帰が可能
- 上半身の運動制限もなし
など、低侵襲によるメリットはたくさんあります。
体格や弁の状態によってMICSでは治療困難な場合は従来通りの胸骨正中切開を余儀なくされますが…
開胸手術の中で注目されています!
低侵襲の代表!カテーテル治療
日本では2018年4月から施行開始となったMitraClipシステムを用いた経カテーテル僧帽弁クリップ術。大変画期的です!
MitraClipは僧帽弁の前尖と後尖をつなぎ合わせ、弁輪が拡張しているものを修復することができます。その結果、僧帽弁の逆流が少なくなり、左房の心負荷の軽減が可能になるのです。
治療は心臓超音波装置を食道に挿入し、心臓超音波画像によるモニタリング下でカテーテルの操作を行うのでカテーテル治療とは言っても全身麻酔管理となります。
ただし、心臓を動かした状態で治療できるので人工心肺を回す必要がないという点で低侵襲と言えます。
大腿静脈からアプローチし、右心房までガイドワイヤーを挿入します。
右心房から左心房へ穿刺し、僧帽弁の位置にMitraClipのガイドカテーテルを挿入します。
この位置決めが大変重要です。
超音波の画像をみながら僧帽弁の逆流がある部位へ向けて操作しクリップを装着します。
クリップ装着後、逆流の改善の程度を画像で確認し、不十分な場合はクリップの置き直しや追加で挿入します。
通常、術後2~3日で退院できるので入院期間の短縮・早期社会復帰を実現させる低侵襲な治療法です。
2018年12月現在、国内で12施設でこの治療法が導入されています。
内科治療
根治治療ではなく、状態が思わしくなくて外科手術・カテーテル治療ができない場合や不整脈や心不全などの合併症の治療のために併用して行います。
人工弁置換術を施行した患者の場合、生涯に渡り抗凝固薬を内服する必要があります。
救急看護の実際
僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症ともに、救急搬送される場合は心不全や心原性脳梗塞を合併している可能性が高いです。
心不全の救急看護については
心原性脳梗塞の救急看護については
を参照して下さい!
どんな様態にせよ、呼吸・循環動態を安定させないと僧帽弁の治療は開始できません。
まずは心不全や脳梗塞の急性期治療をし、状態が安定したところで僧帽弁の手術もしくはカテーテル治療となります。
カテーテル治療に大変興味がありましたが、僧帽弁の弁膜症で救急搬送された患者をそのままカテーテル施行するというケースはまずないので、私もまだ見たことがありません。
弁膜症の場合、検査内容も多く、心不全や血栓の合併症で予後も左右されるので根治治療+合併症予防・治療の同時進行となるでしょう。
看護師の皆さん!今の仕事、将来へ不安を感じている人は
をぜひ参考に。